残留農薬の被害件数は日本国内でどれくらい?農薬の基礎知識についても解説

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食べ物の安全性については、自分自身はもちろん、子どもの身体を考えて心配する方も多いかもしれません。野菜や果物などの農産物には一般的に農薬が使用されており、ある程度の農薬が残留することになります。ここでは農産物の農薬や残留農薬についての基礎知識や、残留農薬の検査結果・被害件数について解説していきます。

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農薬と残留農薬についての基礎知識

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野菜や果物などの農産物を作る過程では、作物に合わせた農薬を使用するのが一般的です。農薬は食品添加物と違って何を使ったかの表示義務はありません。しかし日本国内では主に農薬取締法と、食品衛生法第11条第3項による農薬に関する規制が存在します。

この2つの法律により、農産物に使用する農薬の種類や、人の健康を損なわない残留農薬の基準が定められています。

使用する農薬は農薬取締法で規制されている

農薬取締法とは、農産物の生産者が使用する農薬を規制する法律です。農薬取締法は登録制となっており、農林水産大臣の承認を受けた農薬のみ製造・販売・使用を許可されます。農薬取締法では農薬ごとに使用できる農産物や使用方法が定められています。

残留農薬については食品衛生法で残留基準が定められている

食品衛生法第11条第3項とは、農薬の残留量が「残留基準(人の健康に害を及ぼさない量)」を超えた食品の製造・販売を禁止する法律です。厚生労働省管轄の法律で、食品ごとに残留基準が設定されています。「残留農薬のポジティブリスト制度」などと呼ばれることもあります。

残留農薬の検査について

農薬取締法で農薬の使用を規制するだけでは、一般に流通する際、食品の残留農薬が残留基準を下回っているかを確認できません。そこで残留農薬の監視検査は国内の農産物については各地方自治体が、輸入農産物については検疫所が抜き取り検査などを行っています。

日本ではポジティブリスト制度の導入後、多くの農薬に残留基準が定められ、残留基準が定められていない農薬についても「一律基準」を用いてチェックをしています。もしこの作物では想定外となる(ポジティブリスト制度にない)農薬が一定以上含まれていたとしても、残留農薬の検出ができ、その食品の販売を規制することが可能です。

日本国内の残留農薬の検査結果について(2009年度~2018年度)

結論から言うと、日本国内では検査で残留農薬の基準値を超える件数はかなり少なくなっています。2013年度~2018年度の残留農薬についての検査結果を見ると、残留農薬の基準値を超えたものは国産農産物が29件~78件で全体の0.002%~0.004%、輸入農産物が166件~422件で全体の0.008%~0.013%と非常に少ない件数・割合です。

残留農薬の検査数自体は国産農産物の場合、2009年度に1,198,747件だったものが2018年度には1,330,328件に増えるなど年々増加しています。検査数が増加しているのにもかかわらず、基準値を超える割合がほぼ変わらないため、国産農産物の残留農薬については比較的安心できる状況と言えるのかもしれません。

逆に輸入農産物の場合、残留農薬の検査数は2009年度に3,200,253件だったものが2018年度には1,792,177件へと年々減少しています。ただ基準値を超える割合についてはほぼ横ばいのため、輸入農産物の残留農薬についてもある程度信頼できる状況と言えそうです。

残留農薬の被害件数について

日本国内の残留農薬に関する被害件数はどれくらいあるのでしょうか。ここでは健康被害の有無にかかわらず、残留農薬や有害物質などで問題が取り上げられた食品の事例を紹介していきます。まず2001年には中国産の冷凍ほうれん草について、クロルピリホスなどの残留農薬が基準値を超えていることが判明しました。

この件以降、輸入農産物の残留農薬の監視が強化され、検査数も増加し、2004年以降は残留農薬の違反が大幅に改善されています。同じく2001年には、国内でも農産物に無登録農薬が使用されているとの報告が相次ぎ、残留農薬への不安が広がりました。

2002年には無登録農薬ダイホルタンなど10種類・計400トン弱の販売が判明し、関与が明らかになった業者が処分を受けています。2005年には冷凍ウナギ加工品から合成抗菌剤マラカイトグリーンが検出されました。

これ以降、中国産ウナギは公的機関で検査の基準値内と認められたものしか輸入できない体制となっています。2007年には中国製冷凍餃子を食べた人が嘔吐をし、他でも同じような健康被害が相次いで発生しました。調査により、農薬メタミドホスが高濃度で検出されましたが、現在でも事件の解明はなされていません。

残留農薬ではなく、誰かが意図的に混入させたという説も考えられています。さらに2008年には中国で、有害物質メラミンの汚染がある粉ミルクを飲んでいた赤ちゃんに腎臓結石が多く発生し、世界的に問題となりました。

日本でも広範囲の中国製食品からメラミンが検出され回収となっています。同じく2008年には中国産の冷凍インゲンから殺虫剤ジクロルボスが高濃度で検出されました。この冷凍インゲンを食べた女性には健康被害が発生しています。

しかし殺虫剤の濃度が1袋だけ極めて高かったことから、残留農薬ではなく生産過程で故意に混入したものと考えられています。このように日本国内ではここ15年、故意に混入された農薬や有害物質による問題がいくつもあり社会問題にもなりましたが、残留農薬での健康被害については報告されていないようです。

農薬の使用時期・使用回数・使用量が守られていれば、残留農薬の問題はほぼない

農薬取締法では、農作物の種類ごとに農薬の使用時期・使用回数・使用量などを細かく定めています。こうした制限は、農作物を収穫する際に残留農薬が基準値以下になるよう設けられたものです。農薬は散布したものが全て農作物の中に留まるのではなく、雨によって洗い流されたり、蒸発したり、太陽の光や水、微生物により分解されたりして減少していくため、使用方法を守れば農作物に残留農薬はそれほど残らないようになっています。

実際、2014年の農林水産省による調査では、1,001点の農産物について4,737農薬を分析したところ、4,040点では農薬が検出されませんでした。またそれ以外もほぼ全てが基準値以下という結果となっています。

農薬の使用時期・使用回数・使用量が守られていれば、残留農薬についてはほとんど問題ないと言えそうです。

データを見ると、残留農薬に関してはそれほど気にする必要はなさそう

食の安全性について心配する方は近年増えていますが、残留農薬に関しては規制や検査態勢が年々強化されていること・残留農薬による被害件数はここ15年でも報告されていないようであることから、さほど心配する必要はなさそうです。

それでも安心・安全な食材にこだわりたいという方は、「ファーマーズマーケットなど生産者の顔が見える場所の農産物」「無農薬・減農薬・有機栽培の農産物」を選んでみてもいいでしょう。